
郊外の街道などをドライブしていると見かけることのある石屋さんの看板。石屋とは、文字通り、石を売るお店である。石屋と聞いて多くの人が想像するのは、墓石などを売る石材屋かパワーストーンなどを販売する天然石屋かもしれない。今回、山梨県甲州市に訪ねたのは、甲州鞍馬石という庭石に使う石を売るお店だ。石を売るとは、一体、どんな商売なのだろう。
取材:鈴木隆文

まず、こちらで扱っている石について教えてもらえますか?
ウチでは、甲州鞍馬石というものを扱っているんですよ。甲州市大和町は古くから石の産地として広く知られているんですね。で、ここで採れる石が、京都の代表的な鞍馬石に似ているから、甲州鞍馬石と呼ばれているんですね。
鞍馬石というのは、聞いたことはありますね。
鞍馬石は京都を代表する石です。石灯籠にしたり、縁側の沓脱石にしたり、庭い敷いたりして使われています。表面が赤茶色に錆びているから、表情に侘び寂びがあるんです。甲州鞍馬石も、結局、ほとんど同じものなんです。ただ、ブランド的に知られていないから、5分1から10分1位の安い値で買えるというだけです(笑)。


石はどんな風に採ってくるものなのでしょう?
土地を共有財産として持って掘らせてもらうんです。県の指導の元で3年間ずつで許可をもらいながら、大事に掘っていくんですね。最近は、環境問題なんかも気にしながらやらないといけないので、そこら辺りの兼ね合いが大変ですね。それで、採ってきた石を砕いて加工して、売るわけですね。住宅の庭に並べる石が多いですね。
ネット上でも石を売られているようですけど、石を発送するのは大変そうですね。
そうですね。個人向けにも売っているんですけど、宅配費の方が石より高くなっちゃうことはよくあるんです(笑)。だから、ウチの場合は、どちらかというと、石の問屋・造園業者なんかと一緒になってやる商売ですね。だから、熱心な個人のお客さんなんかは直接石を見にきたりしますけど、大体は、業者経由での仕事が多いです。割合としては、業者が6割、個人が4割といった感じでしょうか。


石の商売というのは、どの位の間やられているのですか?
そうですね。祖父が1930年に創業したので、約80年間くらいでしょうか。昔は、京都の鞍馬石を「本鞍」って呼んで、甲州の石は「新鞍」って呼ばれていたんですよ。まあ、そんなに違いはないんですけどね。ほら、こういう風に掘って時を経ると渋くていい感じになるんですよ(石を指さしながら)。逆に掘りたてだと、色鮮やかというか若々しい。さっきのなんかは庭に使うと引き立つんですよ。
佐藤さんは、庭のレイアウトを考えたりもするんですか?
はい。でも、それが一番難しいですね。どうやって天然の石の形を活かしながら、石を打っていくか。飛び石なんかの場合には、どうやって歩きやすくして、しかも感動を与える、大小の石の組み合わせにできるか。その自然の造形美をどう具現化できるか、それが難しい。

石を活かすというのは、どういうことなんでしょう?
要するに、料理で言ったら、素材を最大限に活かすということと一緒ですね。ただ単に綺麗に並べるだけやなくて、大胆さとか繊細さとか、全体的な美しさとか、そういうものを総合的に考えていかなければいけないんです。左勝手(左足で踏む石)と右勝手(右足で踏む石)で石の勢いに配慮するんです。
佐藤さんは、石屋としてだけではなくて庭師の視点をずっとお持ちだったのですか?
いいや、そうではないですね。最初は、やっぱりただの石屋として仕事をしていたところがありますね。私がこの仕事をはじめたのは30年も前のことで、東京の大学を出て、でも、長男だからと家業の石屋を3代目ということで継がされて、嫌だ嫌だと思って、鞍馬石を恨みながらやってましたからね。石は重いし、砕くときの粉で汚れますしね。石の仕事なんて馬鹿のやる仕事だと思っていたんですね(笑)。


石の魅力に目覚めるまでには、どの位かかったんですか?
まあ、少なくとも8年間位、我慢しながらやっていましたね。でも、毎日毎日、石とか庭ばかりみていると、段々、その奥深さがわかってくるんですよ。で、あるとき、「石は完全に生きているな」って、そう思ったんですよ。そうすると、今度は、お客さんともそういう話を不思議とするようになるものなんですね。それまでは、景気の話くらいしかしなかったのに。お客さんの中にも、本当に石が好きでわかっている人っていうのはいるものなんですね。
石を見る目が備わるといろいろなものの見方が変るんでしょうか?
まあ、なまじ石のことを知ってしまうと、旅館に行ったりしても、庭に目がいってしまったり、外国でつくられた石灯籠に目がいってしまったりはしますよね。「ああ、ここは手入れができないほど不景気なんだなぁ」とか「これは、粗悪な灯籠だから、どこどこの国から来ているなぁ」とか、そういう風に見てしまいますね。でも、やっぱりどんなものにも共通して言えるのは、良いものは人が手間暇を掛けてつくったものなんではないでしょうか。


先程から石を見る佐藤さんを見ていると、佐藤さんは本当に石が好きなんですね。
そうですね。今は趣味が仕事で、石を触れているのが面白くて仕方ない。ほんの7、8年前までは、お金のことを追いかけて仕事をしていたんですけど、今は、もうお金儲けだけ考えているんじゃあ、気分的にもつまらなくなってしまう。でも、逆に、自分が石の奥深さにのめり込んで、楽しみながら仕事をするようになると、不思議とお金まわりも良くなってくもんなんですよね。

でも、恨んでさえいた石屋家業を受け入れて、今や自身のライフワークにまでなっているというのは素晴らしいですね。
いやあ、私は、本当に幸せですよ。家が石屋で本当に良かったと思って、感謝しています。好きなことをしてお金までいただけるわけですから。若い頃と何が変ったって、考え方が変っただけなんですけどね(笑)。自分を信じて、駄目だと思っちゃうと駄目だから、せっかく親が生んでくれたんだから、自分で自分の人生を良くしていかないと、そう思うんです。
佐藤庭石店
山梨県甲州市大和町鶴瀬540

佐藤昭幸
昭和30年、山梨県甲州市大和町生まれ。

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