
人形は顔が命、そこには人形の魂が宿る。これは古くから日本に言われてきたことだ。日本三大土人形のひとつに宿る堤人形の顔は、日本に伝わる人形の中でも、特に繊細な表情を浮かべる人形と言えるだろう。十人十色の人間の顔が映された人間の顔を、十人十色の人々が手に取る。表情を描き、これを日々の糧とする13代目の職人は、何を想い手を動かしているのだろう?
取材:鈴木隆文

まず最初に、堤焼きの「堤」は何を意味するのか、教えてもらえますか?
堤焼き人形の堤というのは、ここの地名に由来しているんですよ。この辺りには、灌漑用の沼のような溜池、今で言えば小さなダムがあったんです。それで、昔は沼のことを堤と言っていました。だから、沼のある街ということで、堤町と呼ばれているわけですね。ここにある屏風には、当時の様子が描かれていて、ウチの家と私の祖父、芳賀佐四郎が描かれているんです。
当時は、人形専門のお店だったのでしょうか?
いいえ。当時は庶民が使う雑貨、どんなものでも焼いていたんですね。皿、鉢、釜なんかです。見映えのする瀬戸物のようなものならどんなものでも焼いていました。屏風絵にも、人形ではなくてお皿を見つけることができると思います。


でも、屏風絵に描かれて残されているというのは、なかなか歴史を感じさせてくれますね。
この屏風は、一枚は〜。もう一枚は、京都で偶然に巡り会わされたものなんです。京都で何となく寄った骨董市で、ウチの妻が、突然、「あ、これは、ウチにある屏風と同じものよ」なんて言い出すわけです。それで見てみると、確かにそうなんですね。それで、こういう巡り合わせなら、買わないわけにいかないだろう、ということになりまして、買うことにしたわけです。だから、今、この屏風はうちに2枚あるんですよ。で、この頃は、店と母屋があって、裏が作業場です。今の私の仕事場の環境、そして仕事のやり方というのは、この当時の、この屏風絵に描かれたものと近いものなんですよ。
と言いますと? 現在の芳賀さんの仕事のやり方を教えてください。
まず、今は卸しはすべてやめてしまっておりまして、お店に見に来てくれたお客様、人づてに話を聞いて注文をくださるお客様、そして古くからのお客様に人形を直接買っていただいているんです。父の代には、人形店に卸したり、デパートに卸したりということもしていたのですけど、良い仕事ができるように思い切って、40年位前から卸しをやめてしまって、一切やり方を変えてしまったわけです。




お父さんの代でやられていたことを、おじいさんの時代のやり方に戻すというのはなかなかユニークですね。何か変化はありましたか?
お客さんが訪ねてきて、座っていただいて、私の職人としての仕事ぶりを見てもらうと、お互いに顔の見える状態になりますね。そうすると、いろいろなことが、やっぱり違ってきます。まず、お客さんの立場からしてみれば、つくっている人の顔が見えると、買って帰った後にいろいろと思い出すそうなんです。私自身、他の職人さんの作品等を見るのが好きで参考にもなり、その気持ちはよくわかります。加えて、つくっている私の立場からすれば、お客さんがどんな反応をするかをうかがい知ることのできる、とてもいい機会なんです。
お客さんの反応を見るのは、少しドキドキしそうですね。
はい。しかし、今みたいに不安要素の多い時代の中で、緊張していたお客さんが人形を見て、顔をほころばせて、安心した表情を浮かべるとやっぱり嬉しいですね。お客さんに作品を見てもらうというのは、「職人の腕と心」と「お客さんの目と心」がぶつかり合う勝負の瞬間なんですね。とは言っても、もう一方では、他所様の言うことばかりに一喜一憂していたら、駄目だと思っています。




昔から人形には魂が宿ると言いますが、そういうことも感じたりするものなのでしょうか?
はい。最近は歳を重ねて、一層、そういう魂というものを感じるようになっています。伝統工芸というものは、絶妙な技術が伝承されて形になった物として理解されていると思うのですが、芯の部分はそうじゃないと思うんです。ものをつくるときの姿勢だとか、考え方とか、作者の心構え、気構えがあってこそ、手に取る人の心を動かせる作品をつくれるんだと思います。ですから、魂というものがあるとすれば、つくり手のそういう心が込められたものということになるのではないでしょうか。
一般の人にとっては、魂というものがもっともわかりやすく表れるのは、顔ですよね?
それはあるかもしれないですね。父親の時代には、職人を多いときには10人位雇っていましたけど、顔の部分を描く作業は、他の職人には決してやらせることはしませんでしたからね。目は、十分の一ミリ描き違えただけでも、まったく印象の違うものになってしまうんです。昔からの自分の作品をずらりと並べてみても、やはり、年代毎に、自分の個性というものも全然違ったものになっているんですよ。


十分の一ミリだと、本当に微妙な筆さばきが必要になりますね。
プロとしては、一日の最初に、自分の調子がいいか悪いか、判断しなければいけません。一筆塗って、どうも調子が悪いな、と思えば、すぐに作業を中止して、何で悪いのか原因を考えて、次に活かせるようにしなければいけないんです。それでなければ、それまで積み重ねてきた全作業が無駄になってしまうからです。実は、このことは私の人形づくりの師である父から教えてもらったことなんですけどね。私自身は、まだまだ修行の身で、これから死ぬまでに、もっともっと自分を磨いていかなければいけないんです。だから父が残してくれた言葉や姿というものは、今でも胸に想い起こしながら、仕事をしているんです。


では最後に、堤人形の今後の展望について教えてください。
土人形は、大事にすれば100年も200年ももつものなんです。人形を見たときに人の心に訴える味わいの深い表情にしなければと思います。そのためには、日々、創意工夫をしながら精進していくしかないのでしょう。後継者の問題などは、今のところは思案中です。弟子入りしたいという志願者がいないわけではないのですが、彼らが一通りできるようになるまでは、おそらくは10年以上かかるはずです。ですから、今は、気構え、心構えを正して、少しでも良いものをつくっていきたいと思っているんです。
つつみ人形製作所
仙台市青葉区堤町3-30-20

芳賀 強
昭和16年、宮城県仙台市堤町生まれ。堤人形職人

6 コメント
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