Quantcast

野生を旅する船大工:高橋工業

6月24日2008年 カテゴリー: ビジネス, 国内, 建築

野生を旅する船大工:高橋工業

建築賞を総なめにしている、小さな造船会社が宮城県・気仙沼市にある。気仙沼は陸の孤島とも呼ばれ、最果ての地という空気すら漂う土地だ。この地に根を張る造船職人たちが、建築の世界を席巻するのは何故なのか? 彼らの棟梁である、高橋和志氏に話を聞いた。

Interviewed by Takafumi Suzuki
Translated by Claire Tanaka


船のイメージを本物の船の技術を採用して

出来上がるとバーカウンターになる

元々、こちらの会社は、どんな志と経緯で起ち上げられたのでしょうか?

そんな難しい話じゃないんですよ。単に、祖父と親父がやっていた会社が倒産したんです。俺が25歳かそこらだったかな。残されたのはあばら屋だけ、そのとき家族が10人もいたからね。さあ、勝手に食えって言われたらどうします?三角定規と鉛筆と段ボールだけ携えて、野生の王国で生きていかなければならない。志なんて立派なもんじゃなくて、食べてくためですよ。

三角定規と鉛筆を携えて、どうされたんですか?

(造船の)先輩が、「なんだ、お前のとこ潰れたんか、じゃあ手伝えって」って声をかけてくれたんです。それで、船の半分、俺が請け負うことになったわけです。その後、弟と鉄工所を興して、一緒になって各地の造船所まわって、設計と溶接の腕磨きをしたんですね。

高橋社長の祖父が設計・製造した遠洋マグロ漁船

高橋社長が25歳のときに設計・製造した遠洋マグロ漁船

造船の技術はそこで学ばれたものなのでしょうか?

いやいや。俺は船大工の七代目ですからね。子供の頃から、祖父と親父の船造りをずっと見てるし、手伝ってきてるんですよ。25歳のときには、もう全長70メートルの、大西洋まで行く船を一艘丸ごと設計してたから、技術はとっくに備わっていましたよ。知識の方だけ、後から学んだんですね。

造船から建築へと、フィールドをシフトしたのはどうしてでしょう?

それは造船の仕事がなくなったからですよ(笑)。マグロの遠洋漁業が衰退すれば、造船だってできなくなる。途方に暮れていたときに、最初に、リアスアーク美術館の建物の金属の曲面加工を「造船技術を使ってできないか」、って相談されたんです。


リアスアーク美術館(宮城県気仙沼市)

星の子愛児園(神奈川県川崎市多摩区)

アイアンハウス(東京都世田谷区)

アイロニースペース2(東京都世田谷区)

全く違った分野からの依頼には、戸惑いませんでしたか?

「俺は造船屋だぞ!」とも思いましたよ(笑)。でも話聞いてみたら、「これは船と同じだな」と思って、「家造りもやってみよう」、そう思ったわけです。

建築技術と造船技術というものに、違いはないのでしょうか?

建築は直線で構造力学、船は曲線で流体力学という違いはありますよ。それと、大工も建築家も船はつくれないけど、船大工は船も家もつくれるという違いもあります。でも、算数、数学、理科の基礎科学は、どんな分野でも共通の原理。つまり、基本は同じなんですね。

工場が稼働するのは年間10ヶ月だけ。残りの2ヶ月間は、熟練工は腕磨きに精を出す

船大工さんというのは、家も建てられてしまうのですか?

図面描いて、現場にも出て、一から最後まで、全部わかっているのが船大工の棟梁なんですよ。平面から立体を頭に想い浮かべられて、自分で手も動かせて、他の衆への指示も出してね。しかも、敷地は、7つの海という流体、波の上です。家は雨漏りしても許されるけど、船は沈没したら終わりですからね(笑)。船というのは、小さな生命体というか、宇宙なんです。つまり、電気、空調、水なんかの設備設計も最初から考慮しておかないと、左右の比重のバランスが合わなくなってしまうわけです。建築の世界は分業化されすぎですね。10人の会社で何でもかんでも自分達でやっていればまだ全体を見回せるけど、100人の会社だと、完全にサラリーマンの世界。全部を把握している人間なんて一人もいなくなってしまうのですから(苦笑)。

それにしても次から次に画期的な技術提案をされていますね?

僕らがやっていることは、画期的でも高い技術でもないんですよ(笑)。ものづくりというのは温故知新、造船の世界では50年前の技術です。どんな仕事でもポイントはひとつ。そこを徹底的に考えればいい。銀座のランバンの窓枠のない窓だって、ただ鉄壁に穴が開いてるだけなんですよ(笑)。船でもやったことあるから、きっとできるだろうなって、「はめ合い」の技術を思い出したんです。


気仙沼工場での作業

無数の穴にはアクリルがはめられる

トラックに積み、いざ東京・銀座へ

銀座での設置工事

はめ合いの技術とは、どういうものですか?

温度差で生まれた物質の膨張で、異種素材を接合する技術ですね。工場で鉄に穴開けて、マイナス30度の冷凍室で穴にアクリルガラスはめますよね、それを現場に持ちこむと、鉄とアクリルが膨張してうまく接合して、水漏れしなくなるという寸法です。

ひとつポイントを考え抜いた成果なわけですね?

炭坑の仕事って、半年働いて半年は鍛えるって聞いたことあるでしょ? ウチは工場を10ヶ月しか稼働させないんです。後の2ヶ月は稼ぐための腕磨きをする。その間に、ポイントを考え抜くんですね。何も、大きく難しく考えないで単純に考えればいいんだ。だから、基本は船の技術だけなんです。

ランバン 銀座店。ハニカム構造の鋼板とアクリルが一体となった正面外観

これが、「はめあい」と呼ばれる技術です! 隙間がなく見事!

でも、発想の転換が素晴らしいですよね?

何も特別なことはやってません。飛躍的な発想をする天才なんてのは、この世にはいないと思う。コペルニクスでもコロンブスでも、それぞれの分野では、その当時、誰もがその発見の付近をうろちょとしてたはずなんです。たまたま、それを成して、世に名を残した人が、彼らだったというだけのことなんじゃないでしょうか。だから基礎をひとつひとつ積み重ねて、野生と感性を磨くのが大切なんです。

でも、携わられた建築のほとんどが評価されるというのは、凄いことですよね。

なぜなら、面白くない仕事、家族に見せられないような仕事は請けませんから。神保町シアタービルディングなんかも、小学校5年生の子に見せたいから、「もっとガンダムみたいに格好よくしてくれたらやりたい」ってこのプロジェクトを取り仕切っていたゼネコンに言いましたから(笑)。でも、そんな親馬鹿みたいなことを言いながらも、建築の技術だけでは具現化できない、造船技術が活きた提案をゼネコンのプランに盛り込んでもらい、他の建築屋が技術的にあきらめざるを得ない提案に変えてもらったりしているんですけどね。(笑)。


神保町シアタービルディング(東京都千代田区)

ガンダムのような外観はすべて溶接によって取り付けられており、ボトルは使われていないそう!

生き抜く知恵でもあったわけですね(笑)。

地方で生き残っている中小企業はみんな、そうやって隙間を突いているんじゃないのでしょうか? ウチはそうです。込み入った技術で製造されるものは大手企業が、出来ても真似したがりません。量を確保できないからです。市場経済っていうのは、野生の王国。ウサギが狼に戦い挑むでしょうか?ウサギの食料は草、ならば天敵のいない草原に行くのが普通です。

「野生の王国」というのは、原理的、本質的に考えるのに、非常にピンとくる言葉ですね。

生きていくためには、自分が何者かを知って、長所と短所を知らなくてはいけない。そのためには、旅をして、世界を知らなくてはなりません。その上で、矛を磨いて盾を鍛えるんです。盾を鍛えるというのは、ウチの場合、仕事がなくても焦らなくていい体力をつけるということ。相手が息切れして隙を見せたときに、磨いた矛でグサッてやれるようにするわけです。

見るだけで、船づくりを想起させます

気仙沼本社の裏では、こんな作業が!

これからもドンドン仕事を請けて、大きく活躍してください!

ウチは、ドンドンは仕事を請けない(笑)。年に5つしかプロジェクトやりません。あんまり仕事したくないんですよ(笑)。だって、そうでしょ?人間も動物と同じ生き物、気が乗らないときだってあります。何も1000人のお客を相手にしてるわけじゃなく、1000人分のお金を使ってくれる10人のお客さんを相手にしているだけなんですよ。それに、野生の王国では、獣はお腹がいっぱいのときは獲物を襲いません。人間には理性もあって蓄える知恵もあるけど、どこかのIT企業の社長みたいに、あんまり蓄え過ぎちゃ下品です。そういうのは後が続かないもんなんです。

高橋工業
宮城県気仙沼市波路上内沼38-4

高橋和志
宮城県気仙沼市生まれ。 船大工7代目。高橋工業、創業者。

1 コメント

  1. しびれます。かっこいい。
    かっこよすぎますね。
    自分の国に、こんな人が居たなんて誇りに思います。

    Posted by: nanaco @ 1月25日2009年

  • Share and Enjoy:
  • Digg
  • del.icio.us
  • Fark
  • NewsVine
  • RawSugar
  • Reddit
  • YahooMyWeb
以前の記事