
軽くて、湿気に強く、中のものをしっかりと守る桐箱。そして何よりも魅力的なのは、桐を手にした瞬間に感じる、やわらかい木の質感だろう。春日部の地で、100年来続いてきている松田桐箱を次に引き継いだ、31歳の若手社長が、ユニークな発想とものづくりの精神によって、桐工芸を新しいモダンなデザインへと進化させる。若くして社長になった、松田さんの桐工芸への思いとは?
取材:鳥越寛子

28歳という若さで社長になられていますが、 会社を背負っていくことに対して不安はありましたか?
もちろん不安はありました。親父が亡くなって後を継いだんだけど、知らないこともたくさんあったので。特に、今までお客様とのやりとりは全て先代がやっていたので、まず一人一人お客さんに手紙やメールなどで「若輩者ですがよろしくお願いします」という意味を込めて、挨拶をして、僕自身のことから知ってもらわなければなりませんでした。
作ることに関しては不安はありませんでしたか?
作ることは、小さい頃から今までずっとやってきていたので、そこまで不安はありませんでした。それに、先代に教われなかったことは、今でも桐箱組合の人に教えてもらえたりするんです 。組合の中では、僕が最年少で、最年長の人だと80歳なのですが、彼らと一緒に酒をかわしながら、 桐工芸のそれぞれのこだわりを聞いて、彼らのこだわりを自分のつくるものに取り入れています。


みなさん、応援してくれているんですね。ところで、松田さんは小さい頃から、将来は桐職人になると決めていたのですか?
そうですね。物心ついたときには、もうそう思ってました。洗脳されてたのかもしれません(笑)。幼稚園の卒園アルバムを見ると、みんなは、太陽戦隊サンバルカンになりたいって書いていたけど、僕は桐箱屋って書きましたから 。特に他にやりたいことも無かったのでしょうね(笑)。休みのときなんかは、仕事の手伝いをしたりもしていました。


社長になられたときから、先代とは違ったビジョンをお持ちだったのでしょうか?
はい。一から十まで作れる職人を育てることです。先代の社長は何でも自分でやりたがって、難しい仕事など全部抱え込んでしまう人間だったんです。だから従業員には簡単な仕事しか与えられなくて、職人も育たないということもあった。だから、僕は、あえて難しいことを従業員にやらせるようにしています。僕一人が新しいものを考えるのではなくて、なるべくみんなの意見も反映しながら作っていく方が良いんじゃないかなと思ってます。失敗もするかもしれないけど、その辺は大目に見ながら。
失敗を大目に見るなんて、今どき余裕のある会社ですね! では、それは具体的にはどのようなことでしょうか?
今僕がやっているのは、仕事が終わった後、若い従業員に、「そこらへんに余ってる材料で、作りたいものを作ってみ」って言って作らせることです。そうすると、みんな一生懸命考えて作り出すんですよ。みんな、色んなアイディア持ってるし、感性も違う。僕は、彼らの引き出し役になってアイディアや感性をやる気に繋げてあげたら、良いものができるんじゃないかなと思うんです。そしたら会社としても上手くいくんじゃないかなって。





スタッフのアイディアによって生まれた「桐の矢筒」
自由な環境の会社ですね。みなさん、ユニークなものを作りますか?
うん。一人のスタッフのアイディアは、商品化したものがありますよ。「桐の矢筒」。弓道をやってるスタッフがいて、自分で使うものを作りたいなってことで。面白いものができて、これは需要があるだろうと思ったので、HPに載っけてみたんです。そしたらこれが結構人気なんですよ。弓道の大会で、自分のものを見せびらかしてくるとか言ってました(笑)
桐の矢筒以外にも、ユニークな様々な商品がありますが、どのようなタイミングでインスピレーションを得るのですしょうか?
僕の場合、朝目が覚めるときにひらめくんですよ。起きて、ぼやーっとしてるときに考えると、だんだんイメージがでてきて、形になってきて。そうするといても立ってもいられなくて、朝5時とかにわくわくしながら工房に向かって仕事始めちゃったり。普段、作業しながら考えても思いつかないけど、そういう潜在意識というのが、フラットな状態の時に自然に出てくるんじゃないかな。

面白いですねぇ。ところで、これらの商品は結構安い値段で売られていますよね。
そうですね。そこはポイントなんです。実際、商品はユーザーの手に届くまでに卸値の何倍もの値段になってしまう。問屋さんに安くって言われて苦労して作ったものが、結局お客さんには高く売られている。そういう部分には、前から疑問があった。だったら、なるべく良いものを安く直接提供できたらなと思った。
良いアイディアが生まれてくるために何か大切にしていることはありますか?
お客さんの声ですね。時々お客さんから無理難題を出されることがあるんですよ。特に、デザイナーが注文してくるものとかは、結構色んな形してたり、無理な格好してたり(笑)。でも、新しい作り方やアイディアはそこから生まれてくるかもしれないので、なるべく難しいものでも断らないで考えるんだよ。うちが持ってる技術をアイディアに組み合わせながら。


軽くてモダンにデザインされた名刺ケース

ネジが使われていない蝶番
出来上がったときのお客さんの反応はどうですか?
びっくりしてますよ(笑)。名刺ケースの場合は、蝶番を付けてくれって頼まれたんだけど、桐の素材は弱いからネジが付けられない。だから、ネジを付けなくても良いような蝶番を作ったんだ。あと、磁石をつけてしっかり閉まるように頼まれて、その磁石も入ってるかどうかわからないようにしたら、本当に驚いてた。


湿気から守る桐の米びつ

白く滑らかな桐は美しい
ものづくりをしていて一番嬉しいときは、どういうときですか?
やっぱり喜んでもらえたり、今の話のように驚いてもらえたときです(笑)。一度、米びつの商品を買ったお客さんからクレームがあったんです。3年間の保証期間が過ぎた後のクレームだったから、従業員も対応に困ってしまって。そしたら、そのクレームしてきた人の娘さん、そしてさらには息子さんからもクレームの電話やメールがくるようになりました。そこで、壊れた米びつを送ってもらうことにしたんです。見ると、とても使い込んでいて修理で対応できそうもなかったので、「こういうケースなら仕方ない、どうせなら」と新しい商品を送ることにしたんです。そしたら、とっても喜んでくれてね。息子さん、娘さん、お母さんからお礼の手紙をいただいて、それが嬉しかったです。うちが誠意を持って対応すればお客さんもわかってくれる。最近その辺を学んだというか。お客さんから教えてもらいました。お客さんを大事にしなきゃって。


きれいな丸みを帯びた桐の正座椅子

折り畳み式になっていて収納に便利
今どき珍しいくらい誠意に溢れた会社ですね。では、まとめとして、今後の展望をお聞かせください。
この会社を、工場というよりは、色んなものを生み出して、作り出していくような職人集団にしていきたい。今やっている量産の仕事もしなくちゃビジネスとして成り立たないので、 普段の生産体制(量産)をしつつ、残業や空いた時間を使って仕事としてではなく、なるべく職人の趣味に近い状態で新しい物を作り出せたらと思っています。
職人の趣味として生み出される新しい桐箱! どんなものが生まれてくるのか興味深いですね。
そうですね、みんな、色んなアイディアを持ってますからね。社長としては、生活に密着した商品であって、さらにウチは『桐箱屋』なので、『桐箱』というカテゴリーには、こだわっていきたい。今、商品化しようとしている物は、実は、また、『米びつ』なんです。今までも、桐の米びつは作っていましたが機能的にも、デザイン的にも満足した商品ではなかったので、コンセプトとしては、「こだわり抜いた、桐箱としての、米びつの完成形」を世に出せたら、そう思っているんです。
松田桐箱
埼玉県春日部市緑町5-1-16

松田克成
埼玉県春日部市出身、1970年生まれ。松田桐箱代表取締役。桐箱職人。

3 コメント
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