
宇和島という街は、漁港として知られてきた。ハマチ、鯛、そして真珠。かつては獲る漁業に勤しみ、今はつくる漁業を行う地である。もちろん漁業を生業とする漁師たちもここに住む。そんな磯の街で、話を聞いたのは、大漁旗と呼ばれる漁船に掲げる旗をつくってきた黒田旗幟店。彼の話からは、潮の薫りが立ち上ってくる。
取材:鈴木隆文


早速なのですが、大漁旗というのは、どんな旗なんですか?
大漁旗というのは、昔は大漁の報せを伝える役目を持ったものだったけどな。今は、取引先や同業者、友人なんかが、ご祝儀として、新しく造られた船の船主にプレゼントするんよなぁ。漁師っていうのは、派手なものを好むけん、自分の船に大漁旗が沢山はためいていた方がいいみたい。だから20年前は、この土地ももっと活気があって、漁船の新造ラッシュがあったりしてな、1ヶ月で120本も注文されたこともあったな。
1ヶ月で120本ということは、一日約4本の大漁旗をつくっていたという計算になりますが…。
私は、朝5時半から仕事をはじめるんやけど、当時の繁忙期は夜9時とか10時まで休みなく働いても間に合わなかったん。まあ、しんどいことはしんどいけど、お祝いやけん。喜んでつくらせてもらっていかんといけん。間に合わないものに関しては、他の染物屋に出さないけんけど、昔は5件あった染物屋も今じゃ1件になっているけんな。


今は、大漁旗の他にもいろいろやられていますよね?
はい。鯉のぼりは多いですね。それから、のぼりや法被(はっぴ)なんかもやっています。染めるものは大抵やってますよ。特に鯉のぼりは、今でも、子供の日に向けて、沢山出ますね。
黒田さんは、下絵を描く技術は、誰に学ばれたのでしょうか?
私は、高校卒業後すぐに、4代目としてこの家業を継ぐことに決めました。その技術は、祖父から。最初はなかなかやったです。シンプルなのだとボロが出るから、わざといろいろな柄を付けて誤摩化したりな。それに漁師のお客さんは怖かったしな。「これ、お前が描いたんやろ?おじいさんおらんなったらどうするの?」なんて言われてな。それは、つまり「下手だ」て言われていることやから悔しかったですよ。祖父に描いてもらった帳面を見ながら、描き起こしていくのだけど、なかなか駄目やったな。未熟な文字を隠すため、矢鱈いろいろな柄を付けたりしてな(笑)。


大漁旗のデザインは、何種類くらいあるものなのですか?
それは無数にあるけど、私の頭の中には30種類くらい入っているな。その中でも、「波と朝日」「打ち出の小槌」「恵比寿さん」は、定番のモチーフや思いますよ。何しろ、おめでた事のモノですから。お客さんは、大抵喜んでくれるし、文句を言ってくる人というのはほとんどいないですよ。祖父の代からのお客さんが多くて、まず、イチゲンさん自体が少ないですから。
現在は、作業は主に誰がやっているのでしょう?
私と、もうひとり双子の弟が中心で、あとは、バイトのスタッフと、家族5人がそれぞれ、縫製やらアイロン掛けやらを分業してやっとる。ウチは創業明治37年だから、そのときからずっと100年ちょっとの間、家業として営んできているからな。もともとの成り立ちは、ウチ自体が漁師やったんやと思います。


弟さんと一緒に、そして家族が一丸となって、ひとつの道を歩めるというのは、素敵なことですね。
いやぁ弟とは喧嘩ばっかり、仲悪いですよ(笑)。でも、家族というのは、今の時代、大事です。家族に会話がないというのはつまらんな。家族でご飯を一緒に食べるとか、そういうのがないと、社会のルールだってわからんやないですか。父母がいて、おじいさん、おばあさんがいる家庭の方が、しつけだってできるし、子供は大人が何の話をしているのかはわからないけど、何となく空気で感じるものがあるやないですか。ウチは、打ち合せしている最中でも、おばあちゃんやお母さんが話に混じってくることもありますよ。邪魔になるときもあるけど、核家族の時代だからこそ、ウチは店づくりでも、そういう感じというのにはこだわっていきたいなぁ思っとるんです。
では、後継ぎは、ご家族から出されるようになるんでしょうか。
それは、今年から東京の大学に通う息子やね。「4年間は東京で遊んできていい。でも、その後は、戻ってきて家を継げ」って、言ってありますから。でも、息子としては、観光業の方に行きたいみたいですけど。「許さん!」って言ってありますけん(笑)。

黒田旗幟店の旗は、何となくですが、今っぽい感じがありますよね? サイケデリックというか…。
どうなんでしょうね。まあ、一生懸命やってますよ。でもね、ここの作業場を使って、大竹伸朗さんという現代美術家が制作をするときがあるんやけど、大竹さんなんかは、この床についた染みが「これ、芸術ですよ」って、騒いだりしていましたね。
大竹伸朗さんと言ったら、アート界ではビッグネームじゃないですか!
まあ、彼とはいろいろと関わりがありましてね。一緒にカラオケで歌ったりするんですよ。彼も私もレコード蒐集が趣味だから、話が合うんよ。私は7万枚、レコードを持ってるんですよ。ロック、ジャズ、グループサウンズ、ムード歌謡と何でも聞くよ。レコード聞きながら、下絵描くと、楽しいんよな。


7万枚ですか! レコードのジャケットからインスパイアされることもあるんじゃないですか。
知らんうちに、あるかもしれなんな。でも、今は忙しくて、なかなかゆっくりと、レコードを聴く時間がないから、時間があれば、音楽を聴きたいな。それも、この歳になるとロックやジャズなんかよりムード歌謡の方が疲れが吹っ飛んで落ち着くな(笑)。
なるほど、レコードが黒田さんの過酷な仕事を支えている喜びになるわけですね。
それは趣味の世界での話だからな(笑)。でも、今は、本当に嬉しいのは、打ち合せの場なんかの仕事の話を通じて、お客さんと心が通じる瞬間っていうのかな。何となくなんだけど話が成立する瞬間ってあるやないですか。若い頃には、そういうのがわからんやったけど、今は、それが何より嬉しいんよ。あっ、それから、進水式のときに、自分のつくった大漁旗が沢山掲げられて、たなびいている船を見たときは、やっぱり嬉しかったな。なかなかできん体験やけん、忘れられんな(笑)。
黒田旗幟店
愛媛県宇和島市栄町2丁目

黒田勉
1952年、宇和島市生まれ。旗のぼり製作家。

5 コメント
ウェブマガジン「PingMag」及び、姉妹サイト「PingMag MAKE」は、2008年12月31日をもって休刊いたしました。これまで応援して下さった世界中の皆様、またご協力頂いた皆様に、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。
親愛なるPingMagMAKE読者の皆様
12月31日2008年
科学する心で伝統を見つめる:大辻朝日堂
12月16日2008年
ニッポン製Tシャツがゆく:久米繊維工業
12月9日2008年
日本人の大切な文化を伝えたい:喜久優
12月2日2008年
石を売る人:佐藤庭石店
11月25日2008年
桐箪笥の本質を守りながら:小倉タンス店
11月18日2008年
手づくり、天然素材とデザイン:ツルヤ商店
11月11日2008年
若き陶芸家に学ぶ、志の道:青木良太
11月4日2008年
将棋駒に宿る匠の技:天童佐藤敬商店
10月28日2008年
木工職人のお話:多田木工製作所
10月21日2008年









I prefer to make use of some of the content on my blog. Naturally I’ll provide you with a hyperlink in my internet blog. Thanks for sharing.
Posted by: rugs @ 11月18日2011年
潮風にたなびく祝いの旗:黒田旗幟店 good post77
Posted by: air multiplier @ 4月20日2012年
潮風にたなびく祝いの旗:黒田旗幟店 good post825
Posted by: air multiplier @ 4月21日2012年
潮風にたなびく祝いの旗:黒田旗幟店 hoo,good article!!I like the post!77
Posted by: louboutin sales @ 4月21日2012年
潮風にたなびく祝いの旗:黒田旗幟店 good post1531
Posted by: bladeless fan @ 4月21日2012年