
高級家具の産地として知られる広島県。この地で約80年もの間、家具をつくり続けている家具メーカー・マルニ木工は、長らく質のいい家具をつくる量産家具メーカーとして、業界内ではよく知られた存在だった。しかし家具業界に押し寄せた不況の波、マルニ木工創業者の血を引く男が取ったその秘策とは?
取材:鈴木隆文
まず、マルニ木工の成り立ちをお聞かせください。
山中武夫という人物が、創業した会社になります。彼は、子供時代から、薄くも厚くも、直線にも曲線にもなる木の魅力に魅せられていたようですね。そして、木という素材を、学校で専攻していた機械理論に活かせないものかと考えたようです。その後、独学でドイツ語を習得して、西欧の技術書を読み漁り、5人の職人さんらとともに「山中研究所」を設立します。さらに、1928年に現在のマルニ木工の前身となる「昭和曲木工場」が設立されるわけです。 当時としては、難しい技術だった木材の曲げ技術を確立させたり、「工芸の工業化」ということをしきりに謳っていたようですから、先進的でもあったのだと思います。


創業者の築き上げた礎があってこそのマルニなわけですね。
創業時のメンバーのパイオニア魂というのは、脈々と今のマルニ木工にも、受け継がれていますね。うちの職人さんとお酒を飲んで、木工の技術の話になると、本当にうるさいくらい熱いですから。手前味噌になりますけど、マルニというメーカーは、「技術のマルニ」というくらい、非常に高い技術を持っている会社なんですね。家具の技術で言えば、英国の某家具ブランドが販売している50万円ほどの高級テーブル30万円の価格で売れるものをつくることができるんです。格調高いクラシカルな家具をつくらせたら、「どこにも負けない」という気概のようなものを、スタッフは持っているわけです。


そのマルニ木工・創業者の血を引く武さんも、やはり家具には特別な想いをお持ちだったのでしょうか?
創業者は、私の祖父のいとこに当たりますが、私の場合、もともとは全く家具に興味がなかったんですよ(笑)。会社に参加するようになったのも、2000年に入ってからなんです。東京の大学を卒業してからは、銀行員をしていて、ずっと不良債権の処理をやっていました。ですから、実家を手伝ってくれと言われて、この会社に入ってから最初の5年間で行った仕事は、「工場統廃合」「人員削減」という非常に辛いものだったんです。35年間もこの会社のために働いてきてくれた人たちに、「辞めてください」と言うのは、簡単な仕事ではありませんよ。
銀行と家具メーカーでは、世界は全然違いますよね?
はい。銀行で私がやっていたことは、「1000億円のロスを出して、200億円回収しました」という世界でのことです。当時は、完全にお金の感覚が麻痺していましたね。そのときの私にとっては、お金というのは、ただの数字でしかないわけですから。それが、この会社に参加してみると、純粋に木やものづくりが好きな社員が沢山いるわけです。そうした想いに真っ直ぐな人たちに、感化されると、やっぱり「ものづくりは面白い」ということを自分でも肌で感じるようになるんですね。とは言え、海外からの廉価品が入ってくるようになってからは、家具業界は、どんどん駄目になっていく流れがありました。このままだと、確実にマルニ木工も危ないという状況でしたから、いろいろと手を打たなければいけなかったのです。

いかにも器用そうな道具使い

動作のひとつひとつに心が込められている

黙々と作業に打ち込む

3人の技能者の息の合った恊働
「工場統廃合」と「人員削減」以外でも手を打ったということでしょうか?
はい、その通りです。起爆剤になったのは、ネクストマルニというプロジェクトです。このプロジェクトは、建築家でデザイナーの黒川雅之さんに相談に乗ってもらったところからはじまったものなんです。マルニ木工の状況を説明して、その1、2週間後に、黒川さんからメールをいただいて、「マルニの技術と情熱だけを引き継いで、こんなプロジェクトはしてみてはどうでしょう」と。
ネクストマルニプロジェクトを簡単に説明してもらえますか?
ひと言で言えば、「日本の美意識」というものを土台に、産業と文化を融合する永続的なプロジェクトです。参加してもらうデザイナーには、原点に戻ってもらい、「デザインとは何か、サービスとは何か、事業とは何か、椅子とは何か」ということを考えてもらうんです。その第一弾だったのが、「ネクストマル二12チェアーズ/日本の美意識との対話」というプロジェクト。参加をお願いしたデザイナーは、アルベルト・メダさん、安積伸さん、安積朋子 さん、ハッリ・コスキネンさん、ジャスパー・モリソンさん、植木莞爾さん、妹島和世さんと西沢立衛さん、黒川雅之さん、ミケーレ・デ・ルッキ さん、深澤直人さん、内田繁さん、八木保さんら11組、もう1組は国際コンペの受賞者でした。

アルベルト・メダのデザイン

ジャスパー・モリソンのデザイン

ミケーレ・デ・ルッキのデザイン

深澤直人のデザイン
デザイン界では大御所として知られるメンバーばかりが名を連ねているんですね。
はい。そうなんです。でも、お恥ずかしい話ながら、当時、私どもの会社の者は、皆さんのことをほとんど知らなかったんですよ。だから、物怖じをせずにやり取りができたということもあったのだと思います(笑)。2005年に発表したら、2、300のメディアから取り上げてもらえることになって、皆さんの偉大さを知ったという感じです。展示を行ったイタリアのミラノサローネなどというのは、マルニの歴史からしたら、まったく別世界で、「へぇー、こんな世界があるんだー」って、ただただミーハーマインドが刺激されるばかりでした。つぶれそうな会社なのに、ロイヤリティ契約で、皆さんよく参加してくれたと感謝しています。でも、参加したデザイナーさんにとっても、このプロジェクトを通じて、うちの高い技術を持った技能者とのやりとりというのは楽しかったようですね。うちの技能者も田舎もんのくせに、プライドは高いですから(笑)、「こんなん、強度が持たんで」とか、言いたいことを言うわけですよ。そういう作業が、名だたるデザイナーさんにとっては、心地がいいみたいなんですよ。
社外では大きな反響を得たこのプロジェクトの後、社内のスタッフの意識というのは、変わりましたか?
まったく異質なプロジェクトでしたから、最初は「こんな勝手なことをやって」なんて言うスタッフが大半だったんですが、ちょっとずつ「新しいことをやっているんだぞ」ということを社内に告知していったことでメッセージは伝わっていっていると思います。今でも、「こんなものどうやって売るんや」というスタッフもいますけど、毎週土日に開いていた技術検討会なんかを見ていたりすると、「ああ、このプロジェクトやって良かったなあ」って、思うんです。というのも、せっかくの休みの日、会社に出てきてもらっているにも関わらず、みんな凄くいい顔をしているんです。やっぱり純粋なものって強いなあって思います。うちのスタッフは、ジャスパー・モリソンさんから送られてきた”This leg is ok.”と書かれている試作を嬉しそうに見せてきますから「武くん、武くん、ほら、これ見て!」って。そういうの見ていると、やっぱりものづくりの面白さを参加者全員、社員全員で共有できることは理想だなあと思いますね。新しいプロジェクトでも、より面白いものづくりができたらと思っています。


では最後に、今後の家具づくりで重要になってくるだろうことについて、ひと言お願いします
デザイン等の見えない付加価値にこだわるのはもちろんですが、生産という意味でいえば、家具の場合は、いろいろな作業が積み重ねられた超労働集約的なプロダクトになるので、ニーズに対して、フレキシブルに対応できることが大事だと思いますね。大量生産ではなくて、超多品種少量生産ができるラインをつくることだと思いますね。今後は、ウチも、その点に力を注いでいくつもりでいるんです。
マルニ木工
広島県広島市佐伯区湯来町大字白砂24

山中 武
社長室/開発本部

※News!! —-マルニ木工、最新プロジェクト!
2008年、創業80年を迎えた株式会社マルニ木工は、深澤直人氏と共に新しいコレクションを1月に発表。今回のコレクションでは、マルニで永く愛されてきた家具シリーズのリファインとなる「トラディショナルシリーズ」と、全く新たなシリーズ「HIROSHIMA(ヒロシマ)」の2種類を発表している。ギャラリーle bainにて開催の「木とイスとテーブル展」で、2008年2月10日まで展示が行われている。興味のある人は、チェックしてみよう!
3 コメント
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12月31日2008年
科学する心で伝統を見つめる:大辻朝日堂
12月16日2008年
ニッポン製Tシャツがゆく:久米繊維工業
12月9日2008年
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12月2日2008年
石を売る人:佐藤庭石店
11月25日2008年
桐箪笥の本質を守りながら:小倉タンス店
11月18日2008年
手づくり、天然素材とデザイン:ツルヤ商店
11月11日2008年
若き陶芸家に学ぶ、志の道:青木良太
11月4日2008年
将棋駒に宿る匠の技:天童佐藤敬商店
10月28日2008年
木工職人のお話:多田木工製作所
10月21日2008年









がんばって!
でも盗作には気をつけて
Posted by: 名無し @ 11月15日2008年
Very Nice! makes me remind the coloured performance of the early pink floyd!
Posted by: christian louboutin @ 11月10日2011年
I appreciate the insightful post. Thanks.
Posted by: Web Design Boston @ 11月15日2011年